2022.10.19

この夏、富士山で出逢ったいきもの

富士山日記第112号(執筆者 環境省 富士五湖管理官事務所 アクティブレンジャー 半田尚人)

こんにちは!富士五湖管理官事務所の半田です。 3回シリーズで今年富士山で出逢った自然を振り返ってご紹介していますが、第2回は野鳥や昆虫などのいきもの編です。夏は富士山で暮らすいきものたちが最も輝く季節。今年も過酷な環境の中でもいきいきと、そして逞しく生きる富士山の「住人たち」の姿を見ることができました。その中のごく一部ですが、一緒に見ていきましょう。

ビンズイ(Olive-backed Pipit)

ビンズイ (7月中旬 須走ルート五~新六合目付近にて)

樹のてっぺんでものすごい早口で激しく鳴くこの鳥はビンズイ。夏の繁殖期になるとオスたちはこぞって自分たちの縄張りを主張して「ピピピ、ツィーツィーツィー」と鳴きます。時には囀りながら樹から樹へと飛び移ったり、それはもう大忙し。息が切れたりしないのかなぁ。恋の季節の男子諸君は大変なのです。

ヒメハサミツノカメムシ(Shield bugs)

ヒメハサミツノカメムシ (6月下旬 富士山頂 成就岳付近にて)

富士山の山頂。こんな所にいきものなんているのかなぁと足元をふと見てみると、ヒメハサミツノカメムシがいるではないですか。ハサミを持つのはオス。交尾の際にメスを挟んで逃がさないようにするためなのです。でも何故わざわざ出会いの確率の低そうな富士山頂まで苦労してやって来るのでしょう? 不思議です。

コオニヤンマ(Small Dragonhunter)

コオニヤンマ (7月中旬 御中道にて)

富士山の御中道にオニヤンマ? いえ、これはオニヤンマに姿がよく似たコオニヤンマ。和名では「小型のオニヤンマ」ですが、分類上はオニヤンマとは別でサナエトンボの仲間です。獰猛でオオスズメバチ等と互角に戦えるオニヤンマに姿を似せるなんて、「虎の威を借る狐」なのでしょうか? これも生存戦略です。

 ※掲載当初、同写真を「オニヤンマ」として紹介しましたが、ご指摘を頂き、「コオニヤンマ」と同定し直しました。お詫びと共に訂正させて頂きます。(2022/11/4 修正)

ニホンカモシカ(Japanese Serow)

ニホンカモシカ (7月中旬 御庭にて)

以前に御中道でカモシカに遭遇したのは4年前。その時の個体とは毛並みが違うし、こちらはだいぶ老齢ないぶし銀の様相です。ここ数年のシカの五合目への進出によって生息環境が厳しくなりつつある中で、頑張って生き抜いています。富士山中腹の自然をずっと見守って来た彼らの目には何が映るのでしょうか?

ウソ(Eurasian Bullfinch)

ウソ (7月下旬 奥庭にて)

奥庭の水場でウソ(鷽)のつがいが水浴び。鳥は水浴びすることで、羽根や羽毛の間にたまった油分や埃などの汚れ、寄生虫を落として、病気予防や健康な体を守っています。洗い流した後は木の枝にとまって羽繕い。身体から出る脂をくちばしで丁寧に羽根全体に伸ばします。野鳥にとって水浴びはとても大切なのです。(ホント)

スジグロシロチョウ(Gray-veined White)

スジグロシロチョウ (8月上旬 吉田ルート五~六合目にて)

モンシロチョウに似ていますが、草原を好むモンシロチョウに対して森林を好むので山あいで見る白い蝶はスジグロシロチョウであることが多いです。成虫のオスはレモングラスのような柑橘系の香りがほのかにします。虫の種類が限られた高山に生育する高山植物にとっては、これらの住人も重要な花粉の運び手です。

メボソムシクイ(Japanese leaf warbler)

メボソムシクイ (7月下旬 六合目 経ヶ岳付近にて)

ジュリジュリジュリとスズムシのような美声で登山者の心を和ませてくれる彼らですが、今は様子が違うみたい。一生懸命、小枝を集めては口に咥えて飛んでいき、また暫くすると戻って来てまた小枝集め。そう、彼らは今、巣作りの真っ最中。だから、そんな彼らを見つけても巣を探したりはせず、そっとしてあげて下さいね。

アサギマダラ(Chestnut Tiger)

アサギマダラ (8月中旬 泉ヶ滝付近にて)

遠く沖縄や台湾・中国大陸までも渡りをすることが知られるタフな蝶。でも彼らの寿命は4ヶ月くらいで同じ個体が引き返すわけではありません。別の世代が引き継ぐのです。どうしてそんなことをするのか、どうやって一度も行ったことのない土地へ島伝いに渡って行けるのか、まだまだ謎だらけで魅力的な蝶です。

ホシガラス(Spotted Nutcracker)

ホシガラス (7月下旬 奥庭にて)

以前に八ヶ岳でも見掛けましたが、そこのホシガラスはハイマツの球果を器用に割って中の種を食べていました。また、ホシガラスはリスなどと同じように貯食もしています。でも富士山にはハイマツは生えていません。どうやって食糧を得る? 一説には麓のゴヨウマツの球果を森林限界まで運んで貯食しているとも言われます。

いかがでしたか。ここにご紹介したのはほんの一部で、他にもたくさんのいきものたちが、富士山の厳しい環境で、たくましく生きています。そんな彼らの魅力的な生態にも目を向けながら、来年、また富士山を訪れて欲しいなぁと思います。

でも、ここで一つお願いです。
富士山麓の動植物に関心を持って頂き、写真を撮るのはOKですが、野生の植物を採ったり、動物を捕ったりするのはNGです。また、写真を撮るのに夢中になるあまり、ルートから外れたり、足元の植物を踏み荒らしたりしないようにしましょう。マナーを守り、素敵な自然は素敵なまま後世につないでいくことが、とても大切なことです。

次回は富士山の「景色編」をお届けします。お楽しみに!!

なお、富士山の「植物編」はコチラよりアクセスできます。