2019.07.25

蜘蛛が織り成す富士山の造形

富士山日記第75号(執筆者 環境省 富士箱根伊豆国立公園管理事務所 三浦克己)

梅雨の明け切らないこの時期は、山頂登拝に適した青空が思うように現れてくれませんが、霧に包まれた山麓の森では逆に趣を増します。今回歩いた御殿場口付近の自然休養林では、林間を飾るクモのオブジェがとりわけ目を惹きました。

今日では老若男女ネットやウェブから逃れられない時代になりましたが、太古より森羅にウェブ(web:クモの網)を張り巡らせてきた先達こそ、クモです。ふつう蜘蛛の巣と言えば、こんな形状のものを思い浮かべると思います。

クラシックな垂直円網タイプではあるものの、ガラス玉のような水滴を吊り下げて自然の重力を活用しているのがいかにもアヴァンギャルドです。おそらくゴミグモかオニグモの仲間だと思われますが、よりによってなんという名を付けてしまったのでしょう。それでもの中心に堂々と居座るこのクモをよく見ていると、張り付いた雨粒から水分を摂取している様にも窺えます。この真偽はともかく、巣そのものが獲物の捕獲などの高度な機能性も備えているのは言うまでもありません。


一方少し離れた天然のカラマツ林では、ドーム型の立体的造物が建設ラッシュを迎えていました。中にはこんな粋な山城を築く、アシナガサラグモ(Neriene longipedella)と思しきものもいます。

あたかも雲沸き立つ富士山のような造形をしており、このさりげなく景物をとらえた作品は世界遺産の構成資産に追加したいくらいです。この日富士の山体は雲に包まれて眺めることができなかったかわりに、慈悲深い蜘蛛にその権化を見せて頂けた気分です。 


宝永山噴火の影響もあって森林限界が相対的に低くなっている御殿場口新五合目から水ヶ塚(富士宮口行シャトルバス乗り場)にかけての一帯は、自然景観や植生が変化に富んでおり、遊歩道も整備されているので、折をみて是非お出掛け下さい。


※コース等の詳細は富士山自然休養林のウェブサイトをご覧下さい(Iコース):
http://www.kyuyorin.jp/