2019.08.13

現場のレンジャー・アクティブレンジャーが教える快適登山の極意⑤登山靴編

富士山日記第79号(執筆者 環境省 沼津管理官事務所 松岡宏明)

皆さまこんにちは!沼津管理官事務所の松岡宏明でございます。
 今回は、元アウトドアショップ店員(登山靴担当)だった自分が、快適な富士登山を支える装備の中でも“登山靴”にフォーカスして記事を書いてみたいと思います。

まず、私が店員をしていた頃によく質問されていたのが、

「どの靴なら富士山に登れますか?」
「登山靴は重いし、硬いからもっと軽いものではダメですか?」

などでした。実際、富士山の巡視をしていると富士登山者の中には、街を歩いているのかと思えるようなスニーカーやサンダルで登っている人も時折見かけますし、登山靴は通常の靴よりも重くて硬くて最悪!!と思っている方も多いかもしれません。
 
 

▲スニーカーで登る登山者
上記の質問に対して自分が回答する時のポイントになっていたのが、「リスクをいかに軽減するか」というものでした。
 まず、富士登山におけるリスクとは何でしょうか。怪我や病気、道迷いなど…沢山挙げられます。それらの要因のひとつが登山時の疲労です。なぜなら、疲労により判断が鈍り滑落することもあるし、足がもつれて捻挫してしまうこともあります。また、歩みが遅くなることで日没以降も歩くことになり、道迷いにつながってしまうこともあるからです。

▲登山中疲れて座り込んでしまっている登山者

 リスクが顕在化してしまうのは複合的な要因で起こる場合が多いですが、それらに対応していくためには、きちんと装備、体調を整えて、計画を立てていく必要があります。そこで、今回注目したいのが装備の部分、特に登山靴です。登山靴はただ重く、硬いだけではなく、その名前の通り登山に特化した靴なのです。つまり、登山におけるリスクを軽減するためのツールの一つです。

 靴のアッパー部分が柔らかくなればなるほど軽くなりますが、耐久性が損なわれていきます。逆に硬くなればなるほど重くなっていきますが、耐久性に優れたものになっていきます。特に富士山は火山性のスコリアやごつごつした岩場が多くあり、そこを何時間も歩くので柔らかい靴であれば岩に足をぶつけたりした時の衝撃が直接足に伝わってしまいます。加えて、生地を岩場などに引っ掛け、破けてしまうことで土砂が入ってきてしまったりもします。そもそもサンダルはアッパー部分がないので、それを履いての登山は危険であることが分かるかと思います。
 また、靴底に関しても、スニーカーやスポーツシューズは舗装道路を歩くことに特化したものが多く、靴底を触ってみると比較的ツルツルしているものが多いです。これは、舗装道路との摩擦を減らしてスムーズに歩くための工夫です。一方で、登山靴の靴底を触ってみるとギュッギュッと摩擦が多く発生して指滑りが悪いと思います。この摩擦が登山中の滑りを抑止して、転倒や滑落を防ぎます。

 昔の富士登山者は草鞋を履いて登っていたぐらいなので、靴はどんなものを履いていても登れないことはありません。しかしながら、リスクがあることを念頭において、そのリスクをいかに少なくしていくのかという観点に立つと、サンダルやスニーカーで登ることが登山中のリスクを増やす要因になってしまうことが、今までの説明で分かったかと思います。
 登山の前には、きちんと装備、体調を整えて、計画を立てて臨むようにしてください。
 以上、皆さんの富士登山が良いものになることを祈っています。