2023.06.13

山で注意すべき体調不具合

SNSなどで富士登山でアップされた画像などを見ると、みんなハッピースマイルで「とても気軽に登れる簡単な山」という印象を持つかも知れませんが、3,000mを越す高山であり「日本で一番高い山」であることを忘れてはいけません。 富士山で特に目にする身体の不調について正しく理解しておきましょう。

  • 高山病
  • 低体温症
  • 熱中症
  • 疲労遭難

高山病の症状

富士登山で登頂を断念せざるを得なくなる最も多い理由のひとつが高山病です。安全で快適な登山を楽しむために、高山病を予防しましょう。

  • 高山病は、血中の酸素濃度が下がって発症する症状です。
  • そのまま登り続けると症状は重くなります。
  • 寝不足や体調不良では悪化しやすくなります。

<主な症状>
  • 頭痛、めまい、もうろう感
  • 倦怠感、虚脱感
  • 食欲不振、吐き気、嘔吐など
  • 脳浮腫や肺水腫といった死に至る病気を併発することもあります。

予防策

  • トイレを我慢したり、水分を控えると新陳代謝が低下し、高山病の症状が発症しやすくなります。そのため、水分はこまめに摂取しましょう。
  • 山小屋に着くなり倒れ込むように寝てしまうのはおすすめしません。眠ると呼吸が浅くなり、高度順応できていないまま呼吸が浅くなると高山病になりやすくなってしまうからです。山小屋に着いたら1時間位は荷物整理をしたり、景色を眺めたりしながら身体を高度に慣らすようにし、それからぐっすり休むようにしましょう。
  • 子供はまだ心肺機能も弱く、特に初めての富士登山だと充分な睡眠が取れず、大人以上に高山病に掛かるリスクがあります。子供の様子には十分に気を配り、決して無理はさせないで下さい。

<効果的な予防策>
  • 出発前に、五合目付近の標高で1時間から2時間程度休憩し、高度順応
  • ゆっくりした一定のペースで歩く
  • お腹からしっかりと息を吐き出す深呼吸
  • こまめな水分補給(真水よりもスポーツ飲料が有効)
  • 定期的に、体が冷えない程度の短い休憩
  • 血中酸素濃度を計測するパルスオキシメータをグループで1つ用意し、登山中定期的にメンバーの血中酸素濃度の記録を付けて管理しておくと高山病の兆候を捉えやすくなります。一般的に90%を割ると高山病の兆候あり、80%を下回ると危ない(至急下山すべき)です。

高山病の対応策

  • まず登るのを一旦やめ、深く深呼吸することを意識しながら身体を休める。
  • 複数人で登る場合、相手に迷惑を掛けまいと頑張ってしまいがちで、かつ本人も反応が鈍るため、仲間同士で声を掛け合うことが大事。
  • 高度を下げることが最良の対応策です。高度を下げて酸素の取込み量を増やせば大抵の場合、自然と回復します。山は逃げません。登頂に固執せず、安全に家に帰ることを最優先にして下さい。

<発症後の対応策>
  • 症状がひどい場合は下山
  • 体を暖かくして休む
  • 体調悪化のときは、救護所へ。
<ひとくちメモ>
山でときどき休憩の度に市販の缶入り酸素を抱え込むようにして吸い続けている登山者を見掛けます。
確かに吸っている間は息が楽になって良いですが、これではいくつ酸素缶があっても足りないし、酸素缶を吸うのをやめた瞬間にその標高の酸素濃度に戻ってしまいますから、余計に高山病になりやすくなってしまいます。
大切なのはその標高の酸素濃度に身体を順応させること。缶入り酸素を吸うのは、本当に苦しい時に一時的だけにして頼りすぎず、深呼吸で高度順応を図って下さい。もし、缶入り酸素を手放せず、無いと登れないようなら登山をやめ、すぐに下山をした方が良いです。
 

低体温症の症状

真夏に「低体温症」なんてと思うかも知れませんが、富士山頂で御来光を待っている時間帯は一日のうちで最も気温が低く、真夏でも1桁、7月前半や8月後半以降だと氷点下になることも珍しくありません。低体温症について正しく理解し、予防しましょう。

 
  • 低体温症は脳や心臓など生命を維持している臓器の温度(深部体温) が35℃以下の状態を指し、32~35℃を軽症、28~32℃を中等症、20~28℃を重症と分類されます。
  • 雨や汗で濡れた状態で長時間風に当たることによって体温が奪われると真夏でも低山であっても発症します。ストレスなどで自律神経が乱れ血管の収縮機能がうまく働かないと熱拡散とのバランスが取れず、より低体温症にかかりやすいです。
<主な症状>
  • 全身の震え・悪寒、眠気、歩行ヨロヨロ
     ↓
  • 意識が薄れる、震えが止まる、起立不能
     ↓
  • 昏睡状態、心肺停止

上記を見ると長い時間を掛けて徐々に進行するイメージを持つかも知れませんが、山の環境下では加速的に意識障害が来ます。最初に寒気や震えを覚えると、そこからが早いのが恐ろしいところです。
 

予防策

 1) 体を冷やさない・濡らさない
  • 速乾性の肌着を着る
  • フリースなど保温性の高いものを着る
  • レインウェアで防風・防水

 2) カロリーの高いものをこまめに摂取
  • チョコやナッツ類
  • 温かく甘い飲み物


低体温症の対応策

 1) 雨風をしのげる温かい場所に避難
  • 近くの山小屋
(但しトイレや山小屋の倉庫の占拠・とじこもりは他の人に迷惑がかかるので、絶対にやめてください)
 
 2) 体を内外から温める
  • 濡れた服を着替える
  • 温かい飲み物をとる
  • いざという場合にはエマージェンシーシートは有効
(但し使用後ゴミにならないように必ず回収)
 
<ひとくちメモ>
一般的に標高を100m上がると0.6℃気温が下がります。また、風速が1m/s増すごとに体感温度は1.0℃下がるため、ふもとは夏でも山頂は初冬のような寒さです。
天候悪化や時間帯によっても気温は下がるので、体温調節できるよう重ね着で対処しましょう。 

熱中症の症状

富士山では「高山病」「低体温症」ばかり目がいきがちですが、「熱中症」のリスクもあります。特に富士山の登山道では太陽光を遮る木陰が非常に少なく、ずっと後頭部に直射日光を浴びた状態で登ることが多いので、注意が必要です。

 <主な症状>
  • めまい・立ちくらみ、大量の発汗、筋肉のこむら返り
  •      ↓
  • 頭痛、吐き気、倦怠感、集中力・判断力の低下
  •      ↓
  • 意識障害、痙攣・発作、身体が熱い、まっすぐ歩けない
 

予防策

  • 後頭部もカバーするつばの広い帽子などを被る
(風に飛ばされやすいので顎ひもを留める)
  • 涼しい服装にする
(特に下山では山頂で着込みすぎたまま服装調節をせず、水分を十分摂らずに熱中症になるケースもあります)
  • 屋外であれば適宜マスクをはずす
  • こまめに水分補給 (スポーツドリンクや経口補水液が有効)
(1日あたり1.2Lが目安。特に吉田・須走・御殿場ルートの場合、下山道分の水の確保は要注意)
 

熱中症の対応策

  • 意識の有無を確認 無い場合 → 救助要請
  • 涼しい場所へ避難し、服をゆるめ体を冷やす
(濡れタオルや冷たいペットボトル等あれば、首・脇の下・太腿の付け根など動脈の通る箇所に当て効率的に深部体温を下げる)
  • 水分を自力で摂取できる場合、水分・電解質を補給
(意識が無い状態で無理に水を飲ませるのはNG)
  • それでも症状が改善しない場合 → 救助要請

疲労遭難の恐ろしさ

「高山病」や「低体温症」と違って「疲労」はただ疲れて歩けないだけ。街中だったら、疲れて歩けなくなってもバスやタクシーなどを使えば家に帰ることも出来ますし、喫茶店などでゆっくり休んで仮に夜遅くなってしまっても家に帰ることができます。でも山だったらどうでしょう?
山にはバスもタクシーも喫茶店もありません。どんなに苦しくても自分の力で下山しなければ家に辿り着けません。
自力で下山できなくなった時、それはもう「遭難」なのです。
 
上図は静岡県での開山期の遭難件数の内訳を示したグラフですが、2021年に2件14%だった疲労による遭難が翌年には22件44%と30%も増加しました。山梨県は後述しますが、搬送体制の違いがあり、疲労遭難という形でのカウントはしていませんが、疲労による問合せ件数は同じように増えました。
2022年はコロナ禍に伴う海外からの入国規制がまだあった時なので、入国規制が解除される2023年以降は疲労遭難の増加傾向がより顕著になることが懸念されます。
 
<遭難発生時の搬送体制について知っておこう。>
夏の開山期間中に富士山で遭難事案が発生した時、山梨県側と静岡県側とでは、その対応が違います。
山梨県の場合…吉田ルートでは、県が運営する五合目総合管理センターが情報集約などの司令塔となり、山小屋中心に組織される「救助会」が山小屋、消防などと連携して傷病者を五合目までクローラー(搬送車)で下ろし、五合目で救急車に乗せて搬送する体制があります。
静岡県の場合…傷病者の発生数の違いもあり、静岡県側では山梨のような搬送体制は無く、基本は警察による人力での搬送になります。
 
<クローラーはタクシーではありません!>
右の写真はクローラーと呼ばれる搬送車で山小屋への物資の輸送などの他、前述の吉田ルートでの「救助会」による緊急搬送でも活躍します。クローラーによる緊急搬送は、民間のため搬送料が掛かり、有償です。また「クローラーが必要な緊急搬送」=「救急車による病院への搬送が必要」としていますので、五合目の到着=救急車への引渡しとなります。時折、トラブルとなるケースもありますので、予めよくご理解下さい。
巷でもタクシー代わりに救急車を呼ぶ等が社会問題となっていますが、クローラー運用には様々な費用が掛かりますし、台数・運転士も限られているので、命に関わるより深刻な事案の方に車両を振り向けなければなりません。クローラーはタクシーではありません。疲れたからといって気軽に乗れるものではありませんし、またお金さえ払えば良いというものとも違います。重ねてご理解願います。

予防策

1) しっかりと体力作り!
  • 近場の山で足腰を鍛える
  • 持久力を付けるトレーニング
 
2) 自分の現在の体力に合わせた余裕のある山行計画
  • 昔の感覚で過信しない(中高年の方)
  • 日没前には予定の山小屋に着けるよう計画
  • 特にバス利用による日帰り登山の方は、(山頂に着こうが着くまいが) どんなに遅くても何時には下山開始しないと帰りの最終バスに間に合わなくなるか、事前によく下調べしておく。